教育工学に関する研究を行われている方をお招きし、ご講演いただく研究会です。2023年度より、研究室主催で、不定期で行っています。
開催日: 2025年5月19日
講演者: 池尻良平先生(広島大学大学院人間社会科学研究科 / 教育学部)
場所: 大阪大学 日本財団感染症センター(CIDER)1階106小ホール
形態: 研究室内限定
歴史教育を中心なテーマとして活発な研究活動を展開されている池尻先生をお招きしました。
お話はまずゲームの本質から、ゲーム学習の研究史およびそのメリットへと進みました。その後、ご自身のご研究として、次の3つをご紹介いただきました。(1)歴史資料の解釈において歴史家のように思考することを体験できるデジタルゲーム教材「レキシーカー」、(2)歴史の知識(特に因果関係)を現代の社会問題解決に応用することを学べるアナログゲーム教材「CHRONOFUL」、(3)現代のニュースを歴史事象に関連づけて考察することをAIにより支援する「歴史タイムマシーン」、およびその関連づけ方の異質性が高くなるように学習者をグルーピングしてグループ学習を支援する「歴史タイムカプセル」。なお、お話だけでなく、ゲームやゲーム教材を体験するワークを挟んでいただきました。
ご発表後の質疑応答では、開発された教材の有効な対象の範囲など個々の研究知見の詳細、また、ゲーム学習やゲーム教材開発の本質などについて議論が行われました。
ご講演の後は茶話会、懇親会にもお付き合いいただき、ご講演内容の補足や、普段の研究活動のご様子などをたくさんお伺いすることができました。先生の教育研究活動への情熱に触れ、参加者それぞれが鼓舞された一日でした。
開催日: 2024年10月22日
講演者: 松河秀哉先生(東北大学 高度教養教育・学生支援機構)
場所: オンライン
形態: 研究室内限定
今回は松河先生の修士論文のご研究から現在の関心までの、20年をこえる研究展開を一気に解説いただくという濃厚な内容でした。
幼稚園と家庭をICTでつなぐパイオニア的な開発・実践研究である「i-アルバム」。電子掲示板上の単語出現頻度とその変化の分析。ビッグデータのデータマイニングによって得た知見をベースとした学習方略フィードバックシステムである「学習ナビ」。大学の授業評価アンケートの自由記述データを用いたフィードバックシステムの開発や、トピックモデルを活用した発言分類。そして、現在の主な関心である生成AIの活用については、発言分類への試行をはじめ、レポートのルーブリック評価への応用等の事例をお聞かせいただきました。先生の関心とその変遷を通して、質の高い研究が生産されてきた過程に触れることができました。
質疑応答で議論となったのは、次のようなトピックでした。
・学習ナビの研究のようなビッグデータの回帰二進木分析分析結果は、どのような学習アドバイスとして利用できるか。
・自由記述文の機械学習による分析あるいは、共起ネットワーク図の使いどころ。
・データの処理において生成AIを活用する際の「ブラックボックス」を、どう考えるか。
とくに、ご経験から導かれたそれぞれのテクノロジー・手法の、使いどころや限界については、明快なまとめを示していただき、私たちの思考も活性化されました。今回ご用意いただいたスライドは272枚。飛ばされたスライドにも、もっと詳しくお話をうかがいたいというキーワードがちりばめられていました。またぜひ次の機会があればうれしいです。
開催日: 2024年7月16日
講演者: 三和秀平先生(信州大学)
場所: 人間科学研究科12講義室+オンライン
形態: 研究室内限定
信州大学の三和秀平先生をお招きし、2024年度第1回HUS-ETセミナーをハイブリッド形式で開催しました。三和先生には、長野市等の小中学生を対象に実施されているマインクラフトを利用した実践についてご報告いただきました。学習する意味や道徳的価値に関する哲学対話への活用や、定期的に行われている放課後教室活動、長野市内の教育支援センターと協同した不登校支援への利用と、多様な活用事例を紹介してくださりました。また、こうした実践を設計したり、評価したりする際に、動機づけ(期待ー価値理論、自己決定理論、興味の4側面モデル等)やゲーム利用学習に関する心理学理論、心理学の研究手法に関する知識などがどのように貢献できるかについて、実例を交えて話してくださいました。セミナー後も研究室に場所を移して、議論を続けてくださりました。研究室のメンバーそれぞれの実践や研究と関わる部分も多く、今後の活動に向けて良い刺激を受けていたようでした。
開催日:2023年11月1日
講演者:仲谷佳恵 先生(大阪大学 SLiCSセンター 教学IR・教学データ基盤部)
場所:人間科学研究科E117室+オンライン
形態:研究室内限定
今年から大阪大学に着任された仲谷先生にセミナーをお願いしました。仲谷先生のご研究の1つのテーマは教育工学の立場から英語学習支援にアプローチするものです。今回ご紹介いただいたのは、次のようなご研究でした。
1. 例えば、ある英語記事を読んで、それを要約してスピーキングするという課題は複合的な認知処理が必要です。このため、英語学習者にとっては負荷の高いものです。そこで、この処理で必要となる、語彙の取り出しの処理部分と、語順や時制などを整える処理(統語処理)部分を分割して負荷を下げ、それぞれの処理に焦点をあてて自主練習できるツールや学習活動を用意することで、スピーキング力を向上させようとする研究。
2. 英語スピーキングで表現したいものの単語が思い出せない(または知らない)ときには、別の表現に置き換えたりする方略が有用です。この方略がうまく使える人とそうでない人がいますが、その能力の測定方法を検討する研究。
研究室では、英語教育の方法をテーマに選ぶ学生も多いのですが、語彙学習に焦点をあてたものが多く、スピーキング支援やその評価の話題には触れることは少なかったため、新しいことをたくさん教えていただけました。また、心的な情報処理モデル(今回ならば言葉の産出)に基づき、具体的な支援の方法を導き、その効果を検証していくという研究プロセスは、メンバー全員にとってお手本になったものと思います。お近くにおられる先生ということもあり、またぜひ次の機会を!と期待しています。
開催日:2023年7月5日
講演者:森秀樹先生(昭和女子大学)
場所:オンライン
形態:研究室内限定
教育工学研究室の修了生でもある森先生に、先生が20年以上取り組んでこられたプログラミング教育(そして、テクノロジを使ったものづくりの教育実践)についてお話いただきました。ピコクリケットやスクラッチを使った実践は、学校の内外で様々に展開されており、その事例の多彩さに圧倒されるご報告でした。今回のセミナーは、現在研究室でプログラミング教育の研究をすすめている院生が複数いるため、その研究のヒントをもらえたらと思い、企画したものでした。そのため、プログラミング教育における子供たちの学びの分析に取り組まれた研究事例についても教えていただきました。また新たに着手されているCHOBITTO(ちょびっと)というプロジェクトなどを複数ご紹介いただきました。
その後のディスカッションでは、プログラミング的思考とはそもそもなんであるか。森先生が実践で大切にされている子どもたちの主体的で自由な創造活動を学校やそのほかの場所でどう展開できるのか。アイデアがあっても技術力が追いつかない学習者をどう支援するのかといった多様な論点での意見交換がなされました。
開催日:2023年6月30日
講演者:牧野直道先生・白砂優希先生(ベネッセ教育総合研究所)
場所:人間科学研究科東館E106講義室
形態:研究室内限定
ベネッセ教育総合研究所の牧野直道先生、白砂優希先生のお二方をお招きし、2023年度第2回HUS-ETセミナーを開催しました。牧野先生からは、教材開発という実践的な仕事において、心理学や教育学の研究がどのように貢献しているか(貢献する可能性があるか)についてお話しいただきました。また、人科のご出身ということもあり、人科で学ぶことができる深い専門性と分野を超えた幅広い見識が、企業(社会)の中でどのように活きているかについてもお話しいただきました。白砂先生からは、大学教員や公的な研究機関の研究者と企業に勤める研究者に求められる役割の違いについてお話しいただきました。セミナーの参加者は学部生がメインでしたが、企業で研究者として働く上で大事な視点や経験する困難などについて、活発に議論が交わされていました。大学での学びや研究活動を通じて得られる専門性について、社会に活かすという視点から深く考えるきっかけをいただくことができました。
開催日:2023年6月21日
講演者:市村賢士郎先生(大学改革支援・学位授与機構)
場所:人間科学研究科東館E106講義室+ハイブリッド
形態:研究室内限定
大学改革支援・学位授与機構の市村賢士郎先生をお招きし、2023年度第1回HUS-ETセミナーをハイブリッド形式で開催しました。市村先生には「自律性がもたらす心理学的効果」という演目で、動機づけや創造性、仮想現実(VR)技術を用いた実験を中心に、これまでに市村先生が取り組まれてきた研究について広くご紹介いただきました。研究に取り組んだ背景・きっかけなど、論文には書かれていない話も交えてお話しいただきました。市村先生のご研究は研究室メンバーの関心とも重なる部分が大きく、セミナー後も活発に議論が行われていました。